昨日、もう一冊文房具の本を買いました。
串田孫一さんは、大学の先生で、随筆家・詩人・哲学者らしいです。アマゾンでどんな本を書いたのか調べてみたら、「山のパンセ」がありました。これはどこかで聞いたことがあります。
この本の元は、月刊事務用品という月刊誌に1970年1月号から1973年12月号まで連載されたもののようです。単行本として発行されたのが1978年とあります。わたしは月刊誌が刊行されている途中で生まれました。
目次を見ると、帳面、ペン先、消しゴム、ぶんまわし、インキ、万年筆、糊、白墨・・・・と続きます。ちょうど糊のところまで読みました。「ぶんまわし」というのはコンパスのことです。本文を読めばわかりますが漢字で書くと「分廻し」となります。なるほどそう書けばなんとなくコンパスのような気がしてきますね。
例えば、糊のところを読むとヤマト糊のことが書いてあります。わたしはどこかで読んで知っていましたが、ヤマト糊のヤマトって、大和じゃなくて、矢(や)的(まと)のことなんですね。知ってましたか?
「ヤマト糊は、容器は変わったが、今でもなかなか便利である。小学校の頃には青い硝子の容器で、蓋はブリキで、そこに矢と的がついていた。しばらく使わずにいると、罅割れたり、黴がはえたり、蓋の裏側には錆がぶつぶつに出来た。」
こんな感じで書いてあります。「ヤマト糊のヤマトは大和じゃなくて、矢的だよ」なんてストレートには書いてありません。
内容的にはずいぶん古いと感じるのですが、ちょうど生まれたころに書かれたということもあり、なんとなく当時の雰囲気をうかがい知る感じはあります。とはいえ、作者は1915年生まれなので、書かれている内容はもう少しさかのぼった時代のことなのかもしれません。ただ、少なくとも1970年当初に読んでも違和感のない内容であったのは間違いないと思います。
もうひとつ「萬年筆」から少し抜粋します。
「ところがあまり使う度数の少なくない人ほど、書き味、インキの出方を気にして、どんどん買うように思える。それとデザインが新しくなればそれがまた欲しくなる。これは萬年筆に限らず、一般現象であって、それですべて商売も成り立っているのだろう。」
この辺の事情は今も似たり寄ったりですね。耳に痛いです。汗
この本は読みやすくて、とにかくおもしろい。文房具にまつわる個人的なエピソードだけでなく、ちょっとした豆知識も随所に書いてあります。文房具に関するこんな文章が読みたかった。文房具好きなら、きっとおもしろさがわかるはず。